【知識】セルビア語とクロアチア語

セルビア語とクロアチア語

ボスニアでは何語を話しているのでしょう。この質問に自信をもって答えられる人はいますか。 一昔前なら大抵の人の答は、迷わず『セルボクロアチア語(srpskohrvaski)』だったことでしょう。(クロアチア人は『クロアトセルビア語(hrvaskosrpski)』と答えたかもしれませんが。)しかしユーゴスラビアの崩壊と共に、『セルボクロアチア語』がひとつの言語として扱われることが少くなってきました。

セルビア人にとってはセルビア語であり、クロアチア人にとってはクロアチア語。じゃあ、イスラム教徒にとっては...?

もちろんセルビア人やクロアチア人のなかにも『セルボクロアチア語』はひとつの言語だと考え、それぞれの独立した言語だという主張をばからしいという人もいます。

かくいう私もひとつの言語だと考えます。しかしもとから『セルビア語』と『クロアチア語』という表現が存在していたように、違いは確かにあります。では一体なにが違うのでしょう。

○表記:セルビア語はキリル文字を使い、クロアチア語はラテン文字を使います。

○発音:一般的な分類にそえば、セルビア語は別名エカヴスキ(ekavski)、またクロアチア語はイェカヴスキ(ijekavski)といいます。例えば sneg – snijeg (雪)mleko – mlijeko (場所)vreme – vrijeme (時間、天気)。セルビア語で「エ」と発音するところをクロアチア語では「イェ」と発音します。(注:必ずしも「エ」が「イェ」になるわけではありません。例えば「5」という意味のpet。これはエカヴスキでもイェカヴスキでも「ペート」で違いがありません。)

○構文:クロアチア語では不定詞を用いて行動を表すところを、セルビア語では「da」で節を使った構文が好まれます。
Moram da idem.    Moram ici. (行かなければならない)
[Moram (~しなければならない/一人称) idem (行く/一人称) ici (行く/不定詞)]

○語彙:単語がまるで違う時と音が少々違う程度の場合とあります。また例外もありますが、一般的にいってラテン語やドイツ語の語源が窺われるのがセルビア語です。

hiljada – tisuca (千)
sprat – kat (階)
hleb – kruh (パン)
hemija – kemija (化学)
jugoslovenski – jugoslavenski (ユーゴスラビアの)
kafa – kava (コーヒー)
stanica – kolodvor (駅)
biblioteka – knjiznica (図書館)
flasa – boca (瓶)

紛争後のクロアチアではセルビア語感の強い言葉を避ける傾向にあり、よりスラブ感の強い言葉を使うことを奨励されました。例えば”avion”や”oficir”といった言葉。スラブ系言語の知識がない人にも意味が想像できます。しかし、これを”zrakoplov”、”casnik”と言われてしまうとお手あげですね。

その他にも名詞のつくりかたや発音などの細かな違いはありますが、上記が代表的なものです。もちろん、セルビアおよびクロアチア語圈内でも地方によって発音や表現などの違いがあります。これらの違いから『セルビア語』と『クロアチア語』を別の言語と考えるか否かは、最近は言語学的考慮から離れてしまえば個人的見解によるので、ここで出せる答ではありません。

ではセルビアとクロアチアにはさまれて位置するボスニアで話されているのは何?『セルボクロアチア語』。『セルビア語』。『クロア�チア語』。『ボスニア語』。同じ理由からどれが正しいのかは個人の見解によるので、ひとつの答えを選ぶことはできないでしょう。また地域差もあるので、ここでは個人的経験から中央ボスニアの例を中心に紹介します。

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●表記:ボスニアではもともとラテン文字を使っていました。ユーゴスラビア時代は学校で国語の時間にキリル文字とラテン文字を両方習い、両方で読み書きできることが求められました。しかし最近ではセルビア人地区(Republika Srpska=RS)ではキリル文字を、それ以外はラテン文字を使います。さすがに長いこと使わないと忘れてしまうようで、ラテン文字圈の人々だと、誰でもキリル文字をすらすら書けるというわけではないようです。

●発音:広くみれば、もともとボスニアはイェカヴスキ圈でしたが、紛争後のRSでは意識してエカヴスキを話す人もいるとのこと。私が住んでいた地域では相変わらずのイェカヴスキでしたので、これについてはあまり知りません。

●構文:これについてははっきりとした法則性を見出せませんでした。不定詞表現をよく聞いたように思いますが、これもあくまでも傾向としての話です。

●語彙:これは地域によってかなりばらつきがあると思います。中央ボスニアでは単語は一般にセルビア語として分類されるものが多く使われます。しかし、クロアチアに近いヘルツェゴビナではやはりクロアチア語として分類される単語をよく聞きます。

つまり、住んでいる所はもとより、話者が何系の人間かで話法も左右される場合が多々あるので一概には言い切れないのです。例えば、私が住んでいた町の近くにクロアチア系ボスニア人の居住する地区がありました。

ほんの数十キロ離れた町のこと、方言の違いはありません。しかし、地区に入るとすぐに看板などのつづりが微妙に違うことに気付くでしょう。例えば、事故注意の標識、”crna tacka”、これがその隣町では”crna tocka”になっています。

昔は地の者は皆”tacka”(点)といっていたのに、最近は”tocka”というクロアチア語の発音になっているのです。しかしだからといって、そこに住む人々が皆”tocka”と言っているわけではないのです。

また、最近は『ボスニア語』という言い方もできました。これを「ボスニアで話されている言葉」と解釈するか、または「イスラム教徒の話す言葉」と解釈するかも見解が分れます。一部では確かにセルビア語ともクロアチア語とも違う独特の言葉を作ろうという動きがありました。ひとつの特色としては「H」の音を挿入するというものです。これについてひとつジョークがあります。使えます。

クロアチア語はクロアチア共和国のクロアチア人が話すスラブ語族に属する言語です。隣国セルビア共和国のセルビア人が話すセルビア語とほぼ同じです。セルビア語はキリル文字、クロアチア語はラテン文字用いて書きます。

第一主動詞が支配する第二動詞としてセルビア語では接続法、クロアチア語では不定法を用いる傾向が見られます。第二動詞を接続法にする習慣はアラビア語、ペルシア語、ギリシア語、ブルガリア語、そして例のセルビア語に見られ、かなり一般的です。

だれがこのような変てこな習慣を最初に導入して近辺諸国にもたらしたのか、以前解明が付いていません。

不思議なことはバルカン半島を数百年に亘り支配続けたトルコ人の言葉、トルコ語は不定法を用いていることだ。又、アラビア半島の中でイスラエル国の国語として古典ヘブライ語から半ば人工的に作られたヘブライ語も不定法を用いている。ということで、トルコ人やユダヤ人が接続法の守護である可能性はほぼないように思える。
ラテン語は従属節内では陳述内容が「疑惑」、「願望」、「命令」等の雰囲気がなくてもほぼ常に接続法を用いる傾向があり、「接続法過多症」的言語といえそうだ。

そのような中でクロアチア語は我々が「水」や「空気」のように自然な物として受けいれ、慣れ親しんでいる不定法を守り抜いているヨーロッパ南端の不定法言語国境を成しているということになる。




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